« 【小説】「UFOと親父④」 | トップページ | 【小説】「UFOと親父⑥」 »

【小説】「UFOと親父⑤」

 今から8年前の話である。

 家を飛び出した僕は、大学に行かなくなった。それから2年間「タマエ」という名の女のマンションでヒモとして生活しつつ、バンドを組んでライブを演ったりレコード会社にデモテープを送ったりした。その生活の中で、僕は自分に音楽の才能が皆無であったことを思い知らされた。
 バンドはギターボーカルが僕、ベースは大学の軽音サークルの同期、ドラムはタマエの知人という構成だった。当時僕は軟弱なJ-POPに嫌気がさしていて、日本の音楽シーンに風穴を開けるようなバンドで颯爽とデビューし、音楽で世界を変えてやると息巻いていた。
 
 バンド名は「深遠」という名前だった。「深遠」の曲はいわゆるプログレッシブ・ロックという奴で、端的に言うと和製ピンク・フロイドみたいな事をやっていた。Aメロ・Bメロ・サビの5分構成で終わる日本の歌謡ロックはクソだと思っていたから、奇妙奇天烈なキワモノの曲ばかりを作り、演奏した。
 
 客受けは非常に悪かった。毎月タマエの知人が経営する箱でライブをしていたが、最大動員数が6人という惨憺たる有様だった。その客の内訳も、大学の軽音サークルの友達と、タマエと、タマエの友人といった感じで、要するに内輪の域をまったく出なかった。「深遠」のメンバーはライブが終わるたびに近所のファミレスで反省会を行った。「練習量が足りない」とか「ベースの音がでかすぎる」とか「ライブパフォーマンスが雑」とか色々な反省点が見つかり、何かと工夫して改善を試みたが動員数は一向に増えなかった。
 
 最大の問題点は、多分ボーカルの僕がとてつもなく音痴だったということだ。それは僕も含めてメンバー全員が薄々感じていたことだったが、とうとう最後まで誰も口にできなった。「プログレッシブ・ロックに歌唱力は要らない。プログレッシブ・ロックに必要なのは芸術性と表現力だ」というのが当時の僕の持論だった。
 今考えてみるとそれは、自分が音痴でありながらプロのミュージシャンを目指していることを正当化するためのスケープゴートに過ぎなかった。あの頃の僕はあまりに青すぎた。

  「音楽で世界を変えるんだ」

 あの頃毎日のように、この言葉を口にしていた。タマエと飯を食べている時、大学の友人と呑んでいる時、風呂の中で、寝る前に、僕はこの言葉を呪文のように唱えていた。
 本当は、とても怖かったのだ。人生がとても恐ろしかった。「こんなことをやっていたらいつかホームレスになってしまうんじゃないか」って、心の中ではいつも思っていた。その恐怖を打ち消すために、僕は「音楽で世界を変える」という呪文を唱え続けた。でも、心の底ではわかってたんだ。そんなことは僕には無理だってことを、頭のどこかでは理解していた。理解していながらそれを認めたくなくて、あの頃の僕はいつももがいていた。

 「深遠」は結成して2年で解散した。ベースが「深遠を抜ける」と言い出したからだ。就職が決まってこれ以上活動を続けられそうにないとベースは言った。僕は彼を裏切り者扱いして罵倒し、ぶん殴ってあわや訴訟沙汰という所までいった。僕はベースの代わりを探して「深遠」の活動をなんとか続行しようとした。だけどそうこうしているうちにドラムまでいなくなってしまった。タマエの話によれば、ドラムはパチスロ中毒で、消費者金融に数百万円の借金を抱えていて、ヤクザに追われていたらしい。
 ドラムはその後行方不明のまま、帰ってこなかった。

 「深遠」解散後、全てに絶望した僕はタマエのマンションから逃げ出した。僕は自分の中から「深遠」結成後の2年間を消し去ることにした。ベースとドラムとタマエとタマエの友人の携帯アドレスを消去し、日野の実家に戻った。
 母は「あら、おかえり」と言った。親父は「やっと帰ってきたか、早く就職しろ」と言った。2年間も音信不通だったというのに淡々としたものだった。考えてみれば、タマエのマンションが高円寺にあって僕の実家は日野にある。電車で1時間もかからない距離に僕はいたわけで、親父も母も探そうと思えばいつでも探せた。あとから聞いたら、妹が高円寺にちょくちょく様子を見に来ていたらしい。

 実家に帰った僕は、大学に復学した。大学に僕の籍はかろうじて残っていて、ゼミの教授に文句を言われながら卒業論文を書き上げて、卒業した。そして小さなIT企業に就職した。それから8年があっという間に過ぎた。3年前に僕は妻と結婚して、今では完全な仕事人間、骨の髄までサラリーマンである。

 けれども今でも寝る前にふと、音楽活動をしていた2年間の事を思い出すことがある。あのまま音楽活動を続けていたら、32歳の僕は今、何をしているのだろう?相変わらずタマエのマンションでヒモをしているのだろうか。タマエは優しい女だった。タマエは僕が何をしていても笑いながら見ているだけだった。


 あれからタマエには一度も逢っていない。

続く

↓ブログ人気投票に協力くださーい。クリックお願いします♪
 http://blog.with2.net/link.php?575677

|

小説」カテゴリの記事

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/141249/20698718

この記事へのトラックバック一覧です: 【小説】「UFOと親父⑤」:

» さて、授業を始めます。 [刺激がないなら・・・]
だって今、先生のアソコはツルツルなのですから!!ww [続きを読む]

受信: 2008年5月 3日 (土) 02時59分

コメント

東京ボイスでは、それぞれの目標から逆算したボイストレーニングを実施しております。
多くのヴォーカリストを育てた本格的カリキュラムで、趣味の方からプロ希望者までスキルに合わせた指導で強力にサポートします。

大手プロダクションと提携していますので、優秀なレッスン生にはライブやクラブイベントに出演のチャンスあり!
キャンペーンにつき今なら入会金から1万円キャッシュバック!
個別指導にて、歌がうまくなるマル秘ルールを身に付けるお手伝いをしています。
※体験レッスン、レコーディング設備も完備!

http://voice.nextculture.net/

お問い合わせはお気軽にどうぞ!
東京ボイス 03-5935-6331
http://voice.nextculture.net/inquiry/index.html

投稿 ボイストレーニングスクール東京ボイス | 2008年5月 8日 (木) 14時45分

コメントを書く