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【小説】「UFOと親父④」

 スポーツ新聞、写真週刊誌、バラエティ番組、インターネットのニュースサイト、ブログ…あらゆるメディアに親父の名前が挙がった。近頃親父の顔を見ない日は無いと言って良い。ついには「ムー」が親父の特集を組み、韮澤 潤一郎との1万字に及ぶ対談が掲載された。
 それでも初めのうちは、親父の存在は一部のマニアとヒマな主婦だけが喜んでいるような、狭い世界で知られていたに過ぎなかった。少なくともまともな思考回路を持っている大人は、親父のUFO騒動に冷笑的だった。ところが内閣官房長官が記者会見で親父の名前を出したことがきっかけで一大論争が巻き起こり、TVタックルで内閣官房長官と民主党の議員と韮澤 潤一郎と大槻教授が激論を交わす羽目になった。この番組には親父も出席していた。親父は放映中殆ど口を聞かず、黙ったままだった。親父は番組の最後に阿川 佐和子に意見を求められて、はじめて重い口を開いた。
 その一言が

「私はウソは大嫌いだ。」

 だった。
 この一言には何千、何万語を並び立てた、それまでの論客達の弁論よりも説得力があったようだ。親父は今までUFO騒動に冷笑的だった中年層の心を鷲づかみしたのである。この回のTVタックルの瞬間最高視聴率は68%を超え、21世紀最高の視聴率記録を打ち立てた。
 この番組以後、本格的な「UFOブーム」が日本全体に到来することになった。親父は「UFOおじさん」の名前で世間に広く知られるようになり、老若男女、全ての大衆の人気をかっさらった。親父がカップ焼きそば「UFO」のCMに出演すると、カップ焼きそばUFOの売上は前年の18倍となった。「UFOおじさん」を主人公にしたアニメが放映され、「UFOおじさん」の携帯ストラップが東京駅のキヨスクで販売されると日本中から旅行客が殺到した。ある筋の調査によると、今や「UFOおじさん」の経済効果は2600億円を超えているらしい。
 僕の実家はUFOマニアの聖地となり、毎日のように参拝客が訪れるようになった。この結果実家の周りにはテキ屋の露店が立ち並ぶようになり、その結果不良やゴロツキがやってきて、実家の近所ででさまざまなトラブルが起こったが、親父の人気は留まることを知らず、その全てが暗黙のうちに許された。

 ある時僕は、勤務先の会社の部長に親父のサインをねだられた。

「大口の顧客が君のお父さんの大ファンなんだ。お父さんのサインを持ってきてくれ。これは社長命令だぞ。」

 と言われ、しょうがないので渋々親父に頼んだ。親父はこういったミーハーなことが大嫌いな人間だったが、事情を話すと

「仕事で必要ならいくらでも書いてやる。」

 と以外にもあっさりと承諾してくれ、色紙にサインと一緒に【宇宙と一体になる。】というよくわからないメッセージまでつけてくれた。それを会社に持っていくと部長は大喜びした。数日後に大口の契約が決まり、僕は会社にその功績を認められて月給2ヶ月分の賞与を貰った。

 最早何がなんだかわからなかった。毎日夢の中にいるようで、現実感の薄い日々が過ぎていった。
 
 その年の9月、親父はCDデビューを果たした。「UFOおじさん」名義でリリースしたシングル【私を宇宙(そら)へ連れてって】は768万枚という史上空前の大ヒットを飛ばし、それまで【およげたいやき君】が持っていた記録を塗り替えた。今では女子高生までが【私を宇宙へ連れてって】を着うたにしているらしい。

 これまで何が起こっても無関心を装ってきた僕だったが、この事だけは看過できなかった。僕は親父と音楽活動のことを巡って大喧嘩したことがあるのだ。
 大学卒業を間近に迎えたある日、僕は母と親父に

「ミュージシャンになりたいから、当分フリーターをやろうと思ってる。」

 と告げた。この言葉を聞いた親父は激怒し、僕は勘当同然の状態で家を飛び出したのだ。


続く

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