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【小説】「UFOと親父⑩」

 高円寺の街を抜けた僕は、地下鉄新高円寺駅の改札をくぐって、○×駅へと向かった。

 ○×駅の6番出口を出てすぐ、僕は約束の喫茶店【あたたか】を見つけた。
 赤いレンガに蔦の絡まった壁。路上に出ている電飾の看板はホコリを被っていて、切れかけた蛍光灯がチカチカしていた。白い木枠の窓の内側にはには黄ばんだレースのカーテンがかかっていて、その奥に中途半端なアンティーク家具が所狭しと置かれている。窓辺にひっそりと佇んでいるビスクドールは虚ろな目をしていて、街を行き交う人々をぼんやりと眺めているようだ。

 僕は以前、この喫茶店に来たことがある。

 その事を唐突に思い出した。あの時僕はまだ小学生で、あのビスクドールが怖くて仕方がなかったんだった。
 確か、同じような雨の日曜日だった筈だ。その日親父は「どうしても処理しなくてはいけない案件が残っている」と行って銀行に出掛けたのだが、家に書類を置き忘れてしまったのだ。僕は母に頼まれて、渋々銀行へ書類を届けに行った。
 親父は珍しくすごく喜んで「これはお礼だ」とこの喫茶店に僕を連れていった。「なんでも好きなものを頼んでいい」と親父が言うから、僕はチョコレートパフェとクリームソーダを頼んだ。しばらくして店主が運んできたのは酷く貧相なチョコレートパフェで、安物のアイスクリームと粉っぽいウエハースの味しかしなかった。クリームソーダもなにやらクスリっぽい味がした。
 決して旨くはなかったが、滅多に甘いものを食べない親父と一緒にパフェを食べられたのが子供心に嬉しくて、味の記憶が舌に焼きついている。だから、今でもあの味は克明に思い出せる。

 この店はあの頃と何も変わっていない。あれから20年以上の年月が流れているというのに、この喫茶店だけは時間が止まったように何も変わらず建っていた。
 郷愁に溺れそうになりながら、僕は喫茶店の中に入っていった。
 客はひとりしかいなかった。背の低い、20代くらいに見える女性が一番奥のテーブルに座っていて、僕を見ると嬉しそうな顔で手招きした。
 僕は女性が座っているテーブルに座った。

「方丈ユタカさんですね?」
 女性が話しかけてきた。美人と言えば美人だろう。そこそこモテるんじゃなかろうか。
「はい、そうです。」
「すぐわかりましたよw お父さんそっくりなんですね。」
「そうですかね・・・?」
「ええw目元なんかホントに瓜二つw」

 それを聞いて僕は少しだけ不愉快な気持ちになった。周囲の人間によく「親父にそっくりだ」と言われるのだが、自分ではそうは思わない。親父はバーコード禿げで分厚い眼鏡を掛けており、見るからにサラリーマンといった風体である。僕は母親に似て髪の毛はふさふさだし、それなりにファッションにも気を使っているつもりだ。「目元がそっくり」とよく言われるが、それも自分では実感が沸かない。とにかく「親父に似ている」と言われるのは心外である。


続く

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コメント

ボイストレーニングスクール東京ボイスw

投稿 もこたん | 2008年5月14日 (水) 15時48分

広告の意味ありげさにはいつも失笑しておりますですよww

投稿 まおうげん | 2008年5月14日 (水) 23時19分

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